今回は、撓骨遠位端骨折に対してロッキングプレート固定が施工され、術後に長母指屈筋腱(以下FPL)が断裂した症例について検討されている文献を紹介させていただきます。
三原惇史他:撓骨遠位端骨折掌側ロッキングプレート固定術後の長母指屈筋腱断裂.整形外科と災害外科.63(1)47-50.2014
三原惇史他:撓骨遠位端骨折掌側ロッキングプレート固定術後の長母指屈筋腱断裂.整形外科と災害外科.63(1)47-50.2014
筆者は3症例提示されており、いずれの症例も撓骨遠位端骨折後に掌側ロッキングプレートによる固定を施工されています。術後平均17.5ヶ月後にFPLを断裂されており、それぞれに対して腱移行術(長掌筋腱or環指浅指屈筋腱)を施工されていました。3症例とも、腱移行術後の可動域改善は良好とされていました。
FPL断裂は撓骨遠位端骨折に対して掌側ロッキングプレートによる固定術を行われた患者様の合併症として、諸家によって多数報告されています。原因としては、プレートの遠位設置や整復不良など複数の報告が散見されます。また、プレートの遠位設置は橈骨のwatershed lineより遠位に設置することで、直接FPLと接触し、疼痛を惹起するという報告も見受けられます。また、FPL断裂の前駆症状として、手関節掌側部の違和感や疼痛を訴える場合や、これらの症状を伴わない、無症候性の場合もあるとされています。
中にはこれらに対して、骨癒合後の早期抜釘により、FPL断裂を防ぐことが可能ではないかと報告されている方もいらっしゃいます。しかし、撓骨遠位端骨折の関節内骨折の骨癒合時期は約5〜6週という報告もあることから、理論上抜釘を行うには、少なくとも術後約2ヶ月後となることは容易に考えられます。この期間骨癒合を最優先し、何も動かさないとなると、手関節の拘縮が生じるのは目に見えています。
以上のことから、掌側ロッキングプレートを施工された場合、FPL断裂のリスクを第一に考えると、術後のFPL拘縮予防や、周辺軟部組織との癒着は必ず行うべき理学療法だと考えられます。
FPLは手根管内を走行し、深指屈筋や浅指屈筋、橈側手根屈筋など多くの軟部組織と密接していることに加え、筋腱移行部周辺では方形回内筋などの軟部組織とも密接しています。掌側ロッキングプレートによる固定では、これらの軟部組織にも影響が生じるため、FPLとの癒着予防も大事になってくることが考えられます。
今後も、術後に起こりうる合併症をどのようにして理学療法によって予防・改善できるのかを深く考察していきたいと思います。
投稿者:高橋 蔵ノ助