大腿骨転子部骨折において後外側支持欠損が lag screw sliding に与える影響
(徳永真己・他 : 骨折 第35巻、98-102、2013)
大腿骨転子部骨折をshort femoral neck (SFN) で固定した際に、後外側支持欠損(つまり大転子骨折) が lag screw sliding に与える影響について、元の骨折型と術後整復位を組み合わせて検討した文献です。手術時平均年齢は81.8歳、平均経過観察期間は15.1か月とされています。
結果をまとめると、
1. 後外側欠損型のsliding量は安定型より有意に大きかった。
2. 後外側欠損型は術後整復位が subtype P であれば約半数が over sliding するが、subtype A + N のように前方骨性支持が獲得できれば有意にsliding 量が減少した。
3. 安定型でも、subtype P の方がsliding 量は大きいが、over sliding を呈する例は少なかった。
となります。
元の骨折型の評価として使用されているのは、Evans分類を改変した Jensen分類です。この文献では、2 part 骨折である Jensen分類 1型及び2型 を安定型、Jensen分類 3型及び5型 を後外側欠損型と定義しています。
術後整復状態の評価として、X線側面像の生野分類(2002) が使用されています。
subtype A (髄外型) : 近位骨片の前方骨皮質が骨幹部骨片の前にくる
subtype N (解剖型) :骨皮質が一致する
subtype P (髄内型) : 近位の骨皮質が後方に位置する
(文献より引用)
上記の結果を言い換えると、以下のことがいえます。
○整復位が subtype A + N →前方骨性支持を獲得し、過度な sliding を起こしにくい→ 前方骨接触部位での骨癒合が進む
○整復位が subtype P →近位骨片が遠位髄内に陥入するため過度なsliding に至りやすい →遷延癒合、カットアウトのリスク↑ ※後外側欠損を伴えば、さらに骨性接触を得られにくい
この文献ではこの他、症例提示やsubtype P の場合の術中操作の工夫が示されています。
大腿骨転子部骨折の術後評価において、
頸部内側骨皮質(calcar femorale) が整復されているか、ラグスクリューの位置が骨頭中心よりやや下方に入っているか、ラグスクリュー先端と骨頭表面との位置関係、骨粗鬆症の程度
を確認することが大事といわれています。
これまで私は、大転子骨折を伴う場合に、転位させないよう股関節外転筋の筋収縮を入れる時期を遅くしよう、攣縮を早く落とそう、程度の認識だったのですが、
今回この文献を読んで、荷重にももっと配慮すべきだと気づかされました。
今後は近位骨片と遠位骨片の前後の位置関係についても丁寧に評価していきたいと思います。
骨頭に力が加わると、ラグスクリューのsliding機構により頸部は短縮し安定します。
しかし、過度にsliding をきたすと骨性の接触が得られず遷延癒合となるばかりか、カットアウトを起こせば再手術になります。
頸部の短縮は付着筋の起始停止が近づき筋長が短くなり、筋機能不全を招きます。遊離骨片においても同様のことがいえます。
またsliding の過程で生じる荷重時痛が機能回復を遅らせる場合が少なからずあります。
全ての患者さんの早期機能回復が図れればbest ですが、不安定型の骨折の場合は回復期を見据えた理学療法計画が必要になると思います。
リスク管理としても、予後予測としても、画像評価能力は必要なスキルですね!
投稿者 : 立花 友里