今回は手根管症候群に関する文献について述べられた文献を紹介させて頂きます。
松崎昭夫:手根管症候群手術中に見られた横手根靭帯・正中神経・指屈筋総腱滑液鞘の変化—手根管症候群発症メカニズムの一考察—,整形外科と災害外科,59:(2)231-234,2010.
この文献では実際に手根管開放術を施行された305例の術中所見を元に、手根管症候群にみられる特徴的な所見や、手根管症候群の発症する原因について考察し、述べられています。
手根管症候群は横手根靭帯の肥厚や正中神経との癒着、滑膜の肥厚、屈筋腱鞘の肥厚や癒着などにより生じるとされています。
その中でも、手根管断面は手根管入り口部から2〜2.5cmの部分で最も狭くなるとされており、横手根靭帯は第3中手骨底近位と有頭骨遠位部で最も膨隆しているとされ、両部はおおよそ同じ位置であると述べられています。
正常でもこのような構造をしていることに加え、横手根靭帯の肥厚により神経を圧迫するリスクが増大することも予測されます。また、この横手根靭帯肥厚部では、その深層に正中神経が存在し、さらにその深層には示指・中指の浅指屈筋、さらに深指屈筋が順に配列しています。
横手根靭帯による表層からの圧迫に加えて、浅指屈筋の過緊張状態での指や手関節の屈曲による深層からの度重なる圧迫が正中神経を絞扼する原因として最も多いと述べられています。
また、症例によっては、正中神経のすぐ横に長母指屈筋や虫様筋が存在し、それらが神経を圧迫する要因のひとつであるとも述べられています。
正中神経の保存療法では、手根管内圧を減少させること、神経の圧迫を緩和すること、神経との癒着を剥離することが重要であるとされていますが、この文献から、手指の屈筋の緊張を緩和することも正中神経への圧迫を軽減することにつながると考えられ、機能的な神経絞扼による手根管症候群では理学療法が有効であることが示唆されることが考えられました
投稿者:高橋蔵ノ助