殿皮神経の絞扼性神経障害は疾患概念が認知されておらず、MRIでも描出されません。また腰椎疾患に類似した紛らわしい症状を呈することもあり、診断上pitfallとなりやすいと言われています。
殿皮神経は、SCN(上殿皮神経)・MCN(中殿皮神経)・ICN(下殿皮神経)から構成され、頻度が高いのはSCN、MCN障害とされています。
SCNは腸骨稜上縁に筋膜が密に付着する部位を複数の内側枝が走行するところで絞扼されやすく、外側枝は腸骨稜より頭側で筋膜を貫通するため絞扼されにくいと報告されています。
MCNはS1からS3椎間孔へ出た後、分岐・吻合しつつ交錯しながら殿部皮下組織へと走行します。筆者らの解剖学的研究では、MCNの枝は84%がLPSL(後仙腸靭帯)の背側を通過しますが、16%はLPSLを貫通するためLPSLによる絞扼をうけると報告されています。
仙腸関節を後方で連結するLPSLは仙腸関節の支持性を担う重要な靭帯であり機械的ストレスの大きい靭帯です。村上先生らの報告では、仙腸関節内へのブロックよりもLPSLのブロックの方が有効な症例が多いと述べられています。筆者らはLPSLによるMCN絞扼が実在することを解剖で確認しLPSL切開によるMCN剥離術を行い、臀部痛の症例に対して良好な治療成績をえられたと報告しています。
LPSLへのブロックが有効なMCN絞扼と仙腸関節ブロックが有効な真の仙腸関節障害とは分けて考えるべきですが、重症例では両者を併せ持っている可能性もあります。
実際の臨床でも腰殿部痛を主訴とする症例が多く、病態解釈に難渋することがあります。
SCNやMCN絞扼では座位での疼痛が多いとされていますが、梨状筋症候群や仙腸関節障害、仙結節靭帯障害、椎間板ヘルニア、その他にも座位姿勢にて腰殿部痛が出現しやすい病態があります。椎間関節障害でも殿部に疼痛が出現します。
しかし、すべて病態が異なるため適応となる治療も変わってきます。やはり診断、理学療法士としては評価が重要と考えます。少しでも多くの患者さんを良くできるよう、これらの知識を念頭において毎日患者さんを診て悩んでいこうと思います。
投稿者:大渕篤樹