人工膝関節全置換術(以下TKA)後の理学療法では、屈曲可動域の増大やADLの改善が主に進められていると思います。しかし、術後の伸展可動域や自動伸展不全(以下extention
lag)の有無が歩行能力やADLに制限を生じるケースも少なくありません。
そこで今回は、TKA後3ヶ月経過した症例のextention lagと術前の伸展ROMが関与しているかを研究報告した文献を紹介したいと思います。
眞田祐太朗他:人工膝関節全置換術後の膝伸展不全と術前伸展制限との関連性.理学療法科学.32(1).11-15.2017
対象はTKAを施工した22膝であり、全例K-L分類はグレードⅣであり、CS型(日本ストライカー社)の機種を使用されています。
Extention lagに関与する術前因子として、年齢・BMI・罹患期間・両側の屈曲伸展可動域・両側FTAを調査・計測されています。
術前にextention lagは全例で認めなかったが、術後3ヶ月の時点で9例に5°以上のextention lagを認めていました。
また、術後3ヶ月のextention lagを目的変数とした重回帰分析では、術側の術前伸展可動域が有意に推定に寄与した(p<0.001)ことから、術前の伸展可動域制限が術後のextention lagに関与していることが推測されました。
Extention
lagが生じる原因は大腿四頭筋の筋力低下だけではなく、拮抗筋であるハムストリングスの短縮や筋スパズム、腫脹や疼痛、patellaの可動性低下など、更に多くの報告も挙げられています。
この中で術前も術後も関与していると考えられるのは、拮抗筋の短縮や筋スパズムやpatellaの可動性ではないでしょうか。
Patellaの可動性に関しては、屈曲可動域の制限因子にも成り得るため、術後patela置換された患者様でも重要な運動療法時の操作になることは臨床上経験します。
文献の報告でもある通り、TKA後の約40%の症例でextention lagが生じていることから、術前からの症例への介入による伸展制限の改善が、術後のextention lagを予防し、歩行の安定性などを早期に獲得し、患者様の満足度を向上させる事ができるのではないかと考えられます。
今回の文献から、術後の理学療法だけではなく、術前の介入も術後の制限因子の改善につながると改めて感じられたため、術前の理学療法時の評価・治療を入念に行うよう、再度臨床でも努力していきたいと思います。
投稿者:高橋 蔵ノ助