芹田ら:棘下筋に分布する動脈の走行と分布形態-肉眼解剖所見と臨床症状の関連についての一考察-.理学療法科学 32(5):675-681,2017
①トリガーポイントは棘下筋に形成されやすく、トリガーポイントの生理学的機序は明らかにされていないが、筋線維への血流低下が影響を与えている可能性が指摘されている。
②血管分布に関する論文は過去に多く存在しており、分布動脈の種類及び分布割合、切開時のリスクを明らかにするための動脈走行位置のデータ計測が大半を占めている。
この文献では①②の背景を元に棘下筋の動脈走行にみられる特徴と分布範囲の個体差を調査されています。
献体17体、19側の標本を用いられて観察されています。
まず、筋の特徴について
棘下筋の上内側は僧帽筋腱膜に、中央は棘下筋膜に、上外側は三角筋後部線維に覆われていて肩甲棘下部で複雑に絡み合い結合していたと報告されています。
また、棘下筋の背側面の筋膜は厚くピンセットで裂くことが出来ないほどの強度を有していたとも報告されています。
棘下筋には主に2種類の動脈が分布しており、上方から肩甲上動脈(SPS)が分布し、下方からは肩甲回旋動脈(CS)が分布していた。
19例中16例はSPSとCSが観察され、残る3例にはCSのみが分布していた。
また、2動脈の分布範囲には各標本間で差が観察されています。
各標本の分布については以下図を参照
19例の観察結果からSPSとCSの分布形態はSPSが広く分布する例、2動脈が同程度分布する例、CSが広く分布する例に分けられます。
SPS、CSは筋やガングリオンによる圧迫で狭窄することが報告されており、臨床症状の個人差に繋がることが示唆されています。
また、この文献の報告ではCSはこれまでの報告に沿う走行形態であった一方でSPSは上肩甲黄靭帯の上方を超える例と下方を通る例に分けられることも報告されています。上肩甲黄靭帯の下方には肩甲上神経が走行しており、神経絞扼の好発部位でもありSPSが下方を通る例では絞扼されやすいことが考えられるかと思います。
また、この部位での絞扼により上図でのSPSの分布部位に症状が出現する可能性もあるのではないかと考えられます。
今回は棘下筋の神経分布、走行についての個体差を観察されていますが、疼痛など症状を考える場合、他関節、他の軟部組織でも同様にどのような組織がどのように走行、分布しているのかを解剖学的な知識を学び、考察していく必要があると改めて感じました。
明日からの臨床に活かせるように勉強していきたいと思います。
投稿者:天鷲翔太