平野真子他:腱板断裂と肩関節拘縮.整形外科と災害外科43(2),1994:698-702
腱板断裂症例を可動域制限のあるものとそうでないものとに分け、その臨床像および経過を比較することを目的としています。
対象は腱板完全断裂と診断され追跡可能であった55例56肩です。
これらの症例を初診時に可動域制限を認めた拘縮群と可動域制限をほとんど認めなかった非拘縮群の2群に分けています。
検討項目は外傷歴の有無、肩関節造影所見、初診時および追跡時の肩関節疾患治療成績判定基準です。
結果は外傷歴は拘縮群で有意に高値を示しています。造影所見は肩甲下包と長頭腱、関節包をみています。肩甲下包は拘縮群で縮小よりも流出の割合が多く、閉塞した症例を1例認めました。長頭腱では拘縮群で半数以上に異常所見を認めました。関節包では非拘縮群と比較するとinferior pouchの狭小化を多く認めました。
治療は保存療法を34例に行い、22例に手術療法を行っており、日整会肩関節治療成績判定基準は手術療法において追跡時には点数はほとんど差はなく、保存療法においても拘縮群と非拘縮群ともに追跡時の点数がよくなっていました。保存療法を行った群の点数を項目別に見てみると、疼痛は拘縮群と非拘縮群とで差は殆どありませんでした。ADL、総合機能においても改善がみられました。可動域については非拘縮群で悪化の傾向にあり、拘縮群では改善傾向にありました。
これら可動域をそれぞれの動きで見てみると、非拘縮群では初診時の挙上はそのまま維持されており、拘縮群では挙上と外旋はややよくなっているが、内旋は拘縮群も改善がみられませんでした。予後不良を点数別に比較すると非拘縮群では疼痛点数の不変が主な原因であるのに対して、拘縮群では筋力と可動域全体にわたり点数の悪化がみられました。
造影所見より、肩甲下包やinferior pouchの変化が拘縮群においても少なく、長頭腱の異常所見が比較的多かったことから、拘縮の主病態は関節包よりも腱板周辺および肩峰下滑液包にあることが示唆されたと述べています。
手術施行例については追跡時の日整会の点数が拘縮群、非拘縮群間で差がなかったことから拘縮の有無は術後成績に影響を及ぼさないと思われました。この結果については術前より可能な限り可動域訓練を行ったこと、術直前に関節鏡を行い、術中肩峰滑液包は癒着を剥離していたこと、外転装具は90°、術翌日より疼痛内で可動域訓練を実施したためと思われると述べています。保存療法においては内外旋の可動域低下により追跡時に点数が低下しており、これについては内外旋の自宅での訓練を十分に行えていなかった、日常診療においても経時的な推移にあまり注目していなかったことが原因と述べています。
関節鏡所見で拘縮群において関節包の所見が非拘縮群に差がなく、拘縮群の半数に長頭腱に異常所見を認めていました。非拘縮群も腱板断裂しているにもかかわらずこのような所見がありませんでした。なぜ拘縮群にはこのような所見を認めたのか、拘縮する症例には何か特徴があったのか、その他報告と合わせて検討していきたいと思いました。