股関節疾患で臀部痛を有する人の中でも、坐骨結節周囲から大腿後面にかけて疼痛を訴える人をしばしば経験します。坐骨結節周囲の解剖、臨床所見、術中所見から病態説明がなされている論文があったため紹介します。
本論文は、ハムストリングス症候群と診断され手術が施行された59名を対象に、臨床的特徴、術中所見からその病態について述べています。
【臨床的特徴】
症状は臀部下部に限局し、大腿後面から膝窩部まで放射状に広がる。
ほとんどの患者において、坐骨結節の周囲に局所的な圧痛を認めた。ハムストリングス筋の張りを触知することも可能であった。また、下肢の挙上にて再現痛が得られた。
ほとんどの場合、外傷を伴わない。23名の患者において、ハムストリングスの軽度筋断裂が生じていた。特徴的な訴えは、座っているときに感じる痛みであった。スポーツ選手は、ランニングや体操の際のストレッチによる臀部の痛みを訴えた。この痛みは、スプリントやハードリングのように、脚を前方に強制的に動かすことで誘発された。ゆっくり走ったり、横になったりしているときは、ほとんど痛みを感じない。持久系の選手は、急に走り出したり、スピードを上げようとすると痛みを感じる。サッカー選手では、最大限の力でボールを蹴ったときにも痛みを感じた。
【診断】
除外すべき疾患は、脊髄性坐骨神経痛、梨状筋症候群である。本疾患は、PaceのサインとFreibergのサインが陰性で、圧痛を坐骨結節周囲に局所的に認める。
また、坐骨結節滑液包炎はハムストリングス症候群と同様の臀部痛を生じる。後者との違いは、安静時にも痛みを感じ、夜間に楽な姿勢をとることが困難な点である。
筋電図や神経伝導速度の測定は正常である。これは症状が常に感じられるわけではなく、坐骨神経に軸索の損傷がないためである。
【エコー所見と献体解剖】
エコー画像では、ハムストリングス腱膜に高密度の線維束が観察された。エコー検査と手術所見の相関は良好であった。
【手術所見】
ハムストリングス腱膜構造は明瞭で、バイオリンの弦のように緊張していた。筋の大部分には通常2つあるいは3つの腱部分があり、そのうち最も強い腱はアキレス腱のように坐骨神経の近くに位置していた。神経は大腿二頭筋の腱膜の深層、坐骨結節の外側突出部を走行していた。神経と腱の間に癒着が見られる場合もあった。この部位には、はっきりと見える瘢痕組織や滑液包炎は認められなかった。
【病態】
ハムストリングスの腱膜が硬いために起こる。腱膜はバイオリンの弦のように硬い場合がある。最も太い腱膜は大腿二頭筋の大部分にあり、坐骨神経と密接につながり、そのほとんどが坐骨結節の前側方に位置している。ハムストリングス症候群に典型的な座位やストレッチによる痛みは、坐骨神経の圧迫や緊張した腱膜の刺激によるものである可能性がある。
Deep gluteal syndromeやischiofemoral impingementを加味しながら、本病態も一つの症状として念頭に置きながら評価、治療を行っていきます。
投稿者:尼野将誉