【文献紹介】大腿骨前脂肪体の柔軟性と筋力・膝関節可動域の関係性
今回は大腿骨前脂肪体(PFP)の柔軟性が筋力・可動域に与える影響についての文献を紹介します。
水島 健太郎ら:第50 回日本理学療法学術大会(東京)
本研究の目的は,超音波エコー(US)のShear Wave Elastography を用いて、健常高齢者群(N群)とTKA群のPFP柔軟性を評価し、TKA群のPFP柔軟性とROMおよび筋力の関係性を比較検討されています。
対象は,N 群15例22膝(男性5人、女性10人、平均年齢73.1±4.0歳)、TKA 群13例16膝(男性3人、女性10人、平均年齢70.4±9.4 歳)とし、大腿遠位部の長軸走査にてPFPを同定し、大腿直筋筋腱移行部と膝蓋骨上縁を結ぶ中点において短軸走査に変更した上で、PFPの組織弾性を測定されています。測定角度は、膝関節伸展位と90°屈曲位の組織弾性を各3回測定し、その平均値を算出、膝伸展筋力は膝関節90°屈曲位で5秒間の最大等尺性収縮を2回行い、平均値の体重比(kgf/kg)を算出し、算出したPFP柔軟性を群間で比較、またTKA群におけるPFP柔軟性と膝関節屈曲および伸展ROM、膝伸展筋力との相関を求められています。
結果は膝伸展位・屈曲位ともにPFPの柔軟性は有意に低下し、TKA群におけるPFP柔軟性と膝ROMおよび伸展筋力との相関は、PFP柔軟性と膝伸展筋力のみ負の相関が認められ、膝ROMとPFP 柔軟性には相関が認められなかったと報告されています。
結果から、TKA後における膝蓋上嚢の癒着・滑走性の低下だけでなく、この深層に存在するPFPも膝の屈伸運動に関与していることがわかります。また、筋力との相関も認めていることから、PFPの柔軟性低下によって、膝蓋上囊に付着する膝関節筋や、膝蓋上囊およびPFP周囲の広筋群の収縮効率を低下させることが、膝伸展筋力の低下につながっていることが考えられます。
このことから、膝蓋上嚢をアプローチしてもextention lagが改善されない・疼痛が残存するといった症例に対して、表層にある膝蓋上嚢を評価・アプローチするだけでなく、深層まで評価していくことが大事であることが分かり、左右差であったり、アプローチ後どう変化するのかなどの即時効果も求めていくことがアプローチしていくこと上で大事であると感じました。