本日紹介させていただく文献は関節鏡、病理所見をもちいて肩関節拘縮の病態を検討された文献です。
市川徳和他:肩関節拘縮の臨床病理学的検討.中部日本整形外科災害外科学会雑誌42(5),1999:1051-1056
目的は臨床的には凍結肩であるが、画像的に腱板断裂と診断した拘縮肩の病態を明らかにするために、関節鏡を使用して関節内の変化を観察することです。
対象は
拘縮群:臨床的には凍結肩と考えたが、関節造影にて肩峰下滑液包に造影剤が漏出したため、腱板断裂と診断した5例5肩(断裂形態:棘上筋腱小断裂3例、その中の2例はpin hole断裂、1例は1cmの小断裂。その他2例には腱板疎部の断裂。)
対照群として腱板断裂のない凍結肩の2例2肩(凍結肩群)、腱板断裂を有するが拘縮のないimpingemnet sign陽性の症例を用いています(腱板断裂群)。腱板断裂群は滑液包面の不全断裂でした。
検討項目は鏡視が困難であったかどうか、関節内の滑膜増生や色調の状態の観察、肩峰下滑液包と滑膜の病理像の観察です。
関節鏡所見の結果は、拘縮の無い群は全例容易に鏡視可能で滑膜の発赤や増生もみられませんでした。
これに対し、拘縮群は鏡視困難な症例を3/5例認め、関節内は滑膜の絨毛の発赤や増生が全例に見られました。凍結肩群においても鏡視困難な症例が見られました。
滑膜の病理所見では拘縮群、凍結肩群において血管増生と血管拡張を伴ったうっ血が主体でした。また炎症細胞の浸潤も全例に認めました。腱板断裂群においては血管増生もほとんど見られず、炎症細胞の浸潤も認めませんでした。
肩峰下滑液包の病理所見は拘縮群においては線維化、軽度から中等度の血管増生、出血巣を認めました。凍結肩の主な所見は線維化でした。腱板断裂群は血管増生と浮腫を認めました。
拘縮群は鏡視像だけでなく、滑膜病理像および肩峰下滑液包の病理像も凍結肩と同様の所見であり、腱板断裂群とは異なる所見を示しました。拘縮群の主な病態としては関節包内の血管増生やうっ血、肩峰下滑液包の線維化でした。
諸家により拘縮肩の発生要因として様々なものが報告されていますが、拘縮群の断裂形態が微笑であることから、微小損傷が炎症の発火点になり、周辺組織に炎症が波及し、拘縮をきたすと筆者は述べています。今回の結果から画像上には現れないほどの腱板の変性断裂が炎症の発火点となっていることが考えられたと述べています。
拘縮肩の病態の報告をみていくと、変性断裂や上腕二頭筋腱損傷など明らかに損傷を認めるところから拘縮が始まるとすると報告されたものが多いと思います。
この文献から、画像では評価できない炎症が背景にあることがわかり臨床中において注意して見ていく必要があると感じました。
4月1日より定例会も申し込みが開始となりました。
日時:4月20日 18:30~
内容:大腿骨頸部骨折における運動療法
定例会の参加には事前申し込みが必要となります。
定員は26名で定員に達し次第申し込みを締め切らせていただきます。
お早めにお申し込みください。