本日は生体内吸収材料が家兎後肢内側側副靭帯損傷の修復に与える影響について報告されている文献を紹介させていただきたいと思います。
太田ら:生体内吸収材料が家兎後肢内側側副靭帯損傷の修復に与える影響について 日本臨床バイオメカニクス学会誌,Vol.21,2000.
この文献では生体内吸収材料を膝MCL損傷の靭帯縫合に用いた場合、修復過程においてどのような影響をもたらすのか検証されています。
実験動物は、若年雄日本白色家兎62羽を用いています。
縫合糸には生体内吸収材料としてキチン(Chitin)とポリ乳酸(PLA)を使用し、非吸収性材料にはポリエステル(PE)を用いられています。
家兎は後肢膝MCLを展開し、膝関節列隙部に5mmの欠損部を作製した後に各マルチフィラメントでmattress縫合されています。
上記の縫合糸の群に加え、5mm欠損のみのSham群、手術操作を加えないcontrol群の計5群で経過を追っています。
術後は処置をせず、術後4、8、12、16週での各時期に屠殺し、膝関節部を摘出して評価を行っています。
評価内容は以下の通りです。
力学的評価:大腿骨-MCL-脛骨複合体を作製し、膝関節屈曲60°で油圧式材料試験器を用いて引っ張り試験を行う。①断裂部位と②破断時荷重を測定する。
そして以下のことが報告されています。
①破断部位
破断部位は大腿骨付着部側(A)、靭帯欠損部(B)、脛骨付着部側(C)の3ヵ所に分けられた。
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術後4週
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術後8週
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術後12週
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術後16週
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Chitin群
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B
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B
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C
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C
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PLA群
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B
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B
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BorC
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BorC
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PE群
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B
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B
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BorC
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BorC
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Sham群
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B
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B
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C
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C
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control群
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C
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C
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C
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C
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②破断時荷重
control群を含む各群とも、経過週数とともに破断時荷重は増加した。
16週時における各群の破断時荷重に有意な差はなかった。
破断部位について、先行研究で正常家兎MCLの破断部位は脛骨付着部側であると報告されています。
以上の報告から縫合各群およびSham群では術後8週時点では靭帯の十分な力学的強度が得られていないことが分かるかと思います。
Chitin群、Sham群では術後8週、16週時点で正常MCLと同部位で破断していますが、PLA群、PE群では縫合部での断裂も認めており、十分な力学的強度が得られていないことがこの報告から分かりました。
破断時荷重についてはすべての群で経過週数とともに破断時荷重が増加したとありますが、手術操作をしていないcontrol群の破断荷重が増加すると言うところに疑問を持ちました。
筆者らは若年家兎を用いたために経過観察中に成長し、靭帯強度が増したのではないかと考察しています。
臨床でMCL縫合術後や保存療法での理学療法を経験することがあります。どの程度の強度があるのか、修復状況はどうなのかは理学療法を展開する上で大切であると思います。術中所見や手術内容を確認することはもちろんですが、どのようなものが使われているのかも確認し、臨床に生かしていきたいと思います。
また、この論文では力学的な評価と組織学的な影響の2つを検証されています。
今回は力学的なもののみ抜粋していますが、組織学的観察についてもとても勉強になりました。
投稿者:天鷲翔太