腰痛を主訴とする思春期(10〜18歳)の女性患者を担当しました。X線画像を確認すると、腰椎にコブ角10°程度の側弯がありました。医師からも指摘されていたようですが経過観察の指示とのことで、治るものなのかと質問されました。改善は難しいと考えられますが側彎の自然経過について知らなかったため調べました。レビュー論文になりますが共有させていただきます。
【背景】
脊柱側弯症はその病因やカーブパターンによってその予後は大きく異なる。
特に思春期特発性側弯症(adolescent idiopathc scoliosis:以下 AIS)は,有病率が 10 歳から 16 歳未 満で 10°以上のカーブをもつ患者は世界で 2~3%、我が国でも 1~2% との報告もあり決してまれな疾患ではない。そのうち0.3~0.5% には、一般的に治療が推奨される20度以上の弯曲があるとされている。その定義は,脊椎の Cobb 角が10 度以上で、椎体の回旋を伴うことを特徴とし、その診断は、10歳以上で他の脊柱側弯症の原因が除外された場合にのみ行われる。
自然経過においては,側弯症の初期の研究ではNachemson ら、Nilsonne らの結果から「側弯症は致命的な自然経過をたどる」という結論に至ってしまった。しかしこれらの報告は、先天性奇形・神経筋疾患などの症候性の側弯だけでなく,特発性側弯症として早期発症側弯症(early onset scoliosis: EOS)なども含まれていた。その他にも、X 線画像 での経過観察がなされてない,Cobb 角の計測は行われていないなどの様々な問題点があげられる.一方,近年の研究では,AIS に限れば、骨成熟を 終えれば急激なカーブの進行はなく、生命予後も健常者と同等・のちの社会生活においても十分に過ご せるという比較的良好な自然経過も示されている。
本研究の目的は、AIS の長期の自然経過について文献的レビューを行い、治療介入を行うべき症例を明らかにし、これまでの研究の問題点を抽出することである。
【対象と方法】
方法は、PubMed を使用して、「adolescent idi- opathic scoliosis」、「natural history」の 2 つの word を用いて文献検索を行った。文献の検索期間は 2020 年 12 月までとした。
文献検索の結果,175 文献が抽出された.ここから 以下の除外基準に従ってスクリーニングを行い 36 文献の本文を確認した。除外基準は①抄録のないもの②英語論文でないもの③先天性側弯症や筋・神経 原性側弯症・症候性側弯症などの明らかに特発性側 弯症以外の側弯症について述べているもの④手術や 装具・理学療法などの治療介入の成績をメインに述 べている論文5内容が本論文の趣旨に添わないものとした。本論文の内容にふさわしいと考える 25 文献 と References より 9 文献を加え、最終的に 34 文献 を採用した。検討項目としてはカーブの進行、心肺機能と死亡率、腰痛、心理社会的背景について着目し、各項について検討を行った。
【結果】
1.文献的内訳
未治療の側弯症の長期的な影響について追跡調査しているコホート研究については 8 コホートの 15文献であった。
このうち、30 年以上の長期フォローされていたのは 5 コホートの 10 文献だった。
2.カーブの進行
骨成熟後のメジャーカーブの進行を決める因子としては,カーブパターン(頂椎の位置),骨成熟時の Cobb 角、バランス、 椎体回旋がかかわっている。しかし、多くの報告ではカーブパターン(頂椎の位置),骨成熟時の Cobb 角に焦点をあてており,バラ ンスの悪化とカーブ進行の関係性・椎体回旋とカー ブの進行の関係性について明確に記載されている文 献はない.
1)カーブパターンと骨成熟時 Cobb 角
すべてのカーブパターンにおいて,骨成熟後も緩かな進行があるが、骨成熟後 Cobb 角が 30°以下ならばその進行は小さく,大きくなるほどその進行は速くなる。なかでも、胸椎カーブは他のカーブパターンより進行が速い傾向があり、Cobb 角が 50〜75°で最もその進行が速くなることが示されている。Weinstein らは追跡期間 40.5 年で骨成熟時の Cobb 角・カーブパターンと、カーブの進行度の関係について報告しており、30°以下では非常に緩やか な進行であるのに対し、すべてのカーブで 50~75°の進行率が最も大きく、その値は胸椎カーブで最も増加していた。Edgerらはカーブパターンと角度によって年間 の平均進行率の予測を行っており、初期と高度変形時には胸椎カーブが最も進行が速いことを示している。
2)バランス
Agabegi らはカーブが大きくなると重力の影響 でバランスの不均衡が大きくなるため、カーブの進 行が速くなると考察しているが,その根拠となるデータはない。
3)椎体の回旋
Edger らは椎体回旋の増加と Cobb の増加は比例関係にあることを述べているが、その根拠となるデータは示されていない。ただし、椎体回旋は後弯 変形と関連があると述べている。
3.心肺機能と死亡率
心肺機能は AIS のカーブの大きさと強く関連し, 特に胸椎カーブの大きさの程度と関連があるとされている。
そのメカニズムは、カーブの増加に伴う椎体の回 旋変形の増悪とそれに続く胸郭の変形と可動域の低下、肺換気量、吸気筋力の低下などが生じる。こ れにより肺高血圧症を来し、右心不全へと発展すると考えられる。胸椎カーブの大きさが 30~50°では、呼吸機能検 査で一部異常値を示す症例はあるが日常生活におい て息切れなどを示す症例はまれである。60°を超えると心肺機能の制限が生じるが他の併存疾患がなければ、日常生活での息切れは少ないようである。しかし,80°を超えると日常生活での息切れの率が多 くなり、100°を超えると肺容量が大幅に減少し肺高血圧症や右心不全などの心肺機能の障害が出現す る可能性が出てくる。Pehrsson らは、20 年後に呼吸不全が発生したのは,%肺活量が45%未満で、カーブ・サイズが110°以上の人だけであったと報告している.
4.腰痛
一般に成人の約 50% が腰痛を経験し、うち 15% は 1 年に 2 週間以上続く腰痛や痛みがあるとされて いる。Codver らは腰痛の頻度は約 2 倍程度(AIS 群 65%,健常対照群 32%)で,その重症度に関しては同等であると報告している。また,Weinstein らは慢性的な痛みの頻度は健常対照群と比較してやや 高く,疼痛強度や持続時間などはほぼ同等と述べて いる.Mayo らは健常対照群と比較して背部痛の 頻度はAIS群に多く(AIS群73%,対照群56%), 重症度に関しても痛み強さ・継続的な痛みの頻度が 高く,社会生活に一部困難をきたしていると報告している。このように、腰痛の頻度・重症度に関しては、報告により若干のばらつきがある。カーブパターンやカーブの角度と腰背部痛の関係については、いずれの報告でも明らかな有意差は認められていなかった。AIS 患者のほとんどは,一般と同様に X 線上の脊椎の変性変化を呈する。しかし、脊椎変性の有無や カーブの重症度と腰痛の間には関連性はないようである。唯一、腰痛の腰椎レベルでの側方すべりのある症例については,腰痛の頻度は多い傾向にあると の報告はある。
上記の結果をまとめると,AIS の「腰背部痛の頻 度」は健常者と比較して同等から 2 倍程度,「重症度」 に関しては同等または悪いことがわかった.「カーブ パターンによる疼痛」の差はない.しかし,ほとん どの文献では日常生活において過度の支障はないと結論付けている。
【結語】
AIS の自然経過について 30 年以上の長期の追跡 調査を行った研究は 5 コホートのみであった。AIS の手術介入の理由はカーブの進行に伴う心肺機能で あり、特に胸椎カーブで Cobb 角が 50 °を超える症例については手術加療を考慮すべきと考える。30~ 50°であれば、整容面やその生活背景、社会状況などを加味し、多面的に判断することが重要と考えられる。AIS の自然経過の研究に関する課題は残されており、特に病因の解明については今後の大きなテーマ となる。そのため、現在 AIS と考えられている疾患 の中には他の疾患による側弯症の可能性もある。実臨床においては、詳細な病歴聴取や身体所見を確認 し、早期にその鑑別を行うことが重要である。
少なくとも自然経過で側彎の改善は難しそうです。「cobb角が大きくなるほどその進行は速くなり、なかでも胸椎カーブは他のカーブパターンより進行が速い傾向があり、Cobb 角が 50〜75°で最もその進行が速くなることが示されている。」ようです。骨端線閉鎖などもひとつのターニングポイントとなるはずなので骨の成熟度も確認すべきであると感じました。
投稿者:尼野将誉