遠位ITB深層の組織についての知見です。
【目的】
腸脛靭帯遠位部の解剖学の再評価を提示することである。
【対象と方法】
・肉眼解剖
5体の解剖室遺体(男女とも、平均年齢78歳)を用いて、外側上顆付近のITBを肉眼的に検査した。
・組織学
ITBの遠位部を、隣接する大腿骨外側上顆とともに、ホルマリン固定した解剖室の死体10体から摘出した。ITBの長軸に沿って8μmで連続切片を切り出し、12切片を1mm間隔でHall-Brunt四重染色(Hall, 1986)、Masson's trichrome、Weigert's elastic stain、トルイジンブルーで染色し観察した。
・MRI画像
健康なボランティア6名(31~60歳、男性5名、女性1名)をカリフォルニア大学サンディエゴ校放射線科の1.5T MRスキャナー(シーメンス社、ドイツ、エアランゲン)で調査した。
【結果】
・肉眼解剖
ITBは、単に大腿筋膜の外側が肥厚したものであった。この深筋膜の層は、大腿部を完全に包囲し、大腿骨の骨膜にしっかりと固定された強固な外側筋間隔膜と連続していた。さらにITBは外側上顆の領域で、しばしば斜めに配向した強い線維束によって、一貫して大腿骨に固定されていた。線維束は上顆そのものに付着していることもあるが、通常はこの部位のすぐ近位に付着しており、骨に近づくにつれて広がっていた。ITBそのものと大腿骨の間に脂肪組織の領域があった。いずれの遺体にも滑液包は確認されなかった。
・組織学
ITB(または大腿骨に至る線維束)と大腿骨側面の間の領域 は、高度に血管が発達し、豊富な神経支配を受けた脂肪組織の塊で満たされており、一部の標本では、鞘胞と髄鞘および非髄鞘 神経線維の束を含んでいた。上顆自体は、大部分が線維性ではあるが、かなり肥厚した骨膜で覆われていた。ITBと大腿骨をつなぐ線維束は、緻密で規則正しい線維性結合組織からなり、疎な細胞は細長い線維芽細胞であった。弾性線維は目立たなかった。線維束は通常、斜めの角度で骨に接近しており、いくつかの線維束は、一連の明瞭な束として骨膜を貫いて骨自体に付着していた。
・MRI
ITBと大腿骨の間の線維性結合は、すべてのボランティアとITB症候群の2人の患者で明らかであった。ITBと大腿骨の間の脂肪組織も同様であった。この部位の脂肪の有無と量は、被験者の脂肪率とは無関係であった。膝外側陥凹部は、プロトン密度およびT2画像において、隣接する脂肪よりも低信号または高信号の均一な領域として明瞭に認められた。無症状のボランティアには滑液包は確認されなかった。
完全伸展と30°屈曲で撮像した膝では、大腿骨外側上顆と外側顆上隆起に対するITBの位置に差があった。ITBのGerdy結節への付着部位は、屈曲30°のときよりも完全伸展のときの方が、大腿骨に対してより外側にあることがわかる。その結果、ITBは30°屈曲位では外側上顆に圧迫されていたが、完全伸展位では外側上顆から引き離されていた。ITBの下、上顆のすぐ上の脂肪が占める領域は、膝関節を 30°屈曲させた時の方が完全伸展時よりも少なかった。
筆者はこれらの結果から、ITB症候群の病態をITBが上顆を摩擦した結果ではなく、「ITBと上顆の間に介在する脂肪層に対する圧迫の結果である」と述べています。
私はこの解剖学的知見から、VL、VI、ITTの滑りに関与し、外側のタニ部の拘縮改善、予防へのヒントにしたいと考えます。
投稿者:尼野将誉